0.999... = 1?

1. 発端

数学的あるいは算数的な議論の場でしばしば起こる0.999... = 1論争。私が初めて気づいたのは、中学生のとき。x = 0.999... とおいて両辺を10倍すると、10x = 9.999... になるが、この両辺から先ほどの式の両辺を引いて9x = 9、従ってx = 1。当時私は違和感を覚えたものの、とりあえず事実として受け止め、何故このようなことが起こるのか、考えた。1 - 0.999 ... を考えると、その答えは0.000... になるわけで、これは0と何ら違いはない。0.999と1の差が0なら、0.999... = 1ということになる。

2. 様々な意見

これについて私は今までいろんな意見を聞いてきた。

当時中学校の先生に確かめたところ、先生も同じようなことを考えた時期があり、不思議に感じたが、結局は1 - 0.999... = 0.000...=0になるので、0.999... = 1になるという回答だった。私の当時の意見と合致する。

高校の漢文の先生は、1/3 = 0.333...、両辺を3倍して3/3 = 0.999...、ところで3/3は1だから、結局0.999... = 1になる、だから数学なんてインチキだ、と言っていた。

私の父親は0.999... と1は表現が異なるのだから、等しいわけがない。0.999...というのは数ではなく、状態を表しているだけでは、という回答だった。父親は東大出身であるから、勉強には相当な自信があったのだろう。

時代を逆に戻って、小学校時代に1より小さい一番近い数は何だと思う?と先生に聞かれたことがある。先生の答えは0.999... と9が小数として永遠に続く数だと言っていた。もっともこの辺りの記憶は定かでないが、私の父親も同様の意見だった。

3. どんなに9を続けても1になるわけがない

0.9999999999...といくつ9を続けても1には到達しない。1との差は0.000000...01とどんどん小さくなるが、決して0にはならない。確かにこれは9が有限個である限り、自明であろう。0.999... = 1を認めづらいとすれば、この辺りの命題が邪魔をしているように思える。

では9を無限に続けたら?

無限に関して別の簡単な例を挙げよう。nが無限大になったとき、1/nはいくつになるだろうか。nがどれほど大きくなろうが、nが実数である限り、1/nは0には近づいても、0そのものにはならない。だがnが無限大になったら、1/nは0になる、というのは多くの人が直感的に認めるところではないだろうか?

感覚的には無限大は「限りない様」、と言えそうだが、これを数学的に定義しようとすると、一筋縄ではいかなそうだ。無限大は実数ではないし、無限にも「実無限」、「可能無限」など色々な考え方があるようだ。無限を使って議論をするのは少々避けたいところではあるが...。

4. 曖昧な"..."の意味

私は大学で教えているときに、何人かの大学院生から、0.999... = 1となるのは不思議ですね、という話をされた。私は数学の教員でも研究者でもない。ただ、理系の研究者として最低限知っているべき数学はある。

学生に対する私の答えはこうだ。0.999...の"..."の意味が曖昧だから、これをしっかり定義する。すなわち、
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から、0.999... = 1となる。つまり、0.999...を小数の9を続けていったときの「極限」として定義するのである。9をいくら続けても1にならないが、0.999... = 1はそういうことを言いたいのではなくて、9を続けていったときの極限、すなわちいくらでも接近できる数が1ですよ、ということなのである。

こういうと、大抵の学生は納得してくれる。特に上記limを使った式は分かりやすいようである。

最近はwikipediaにこの手の議論が詳しく書かれている(http://ja.wikipedia.org/wiki/0.999...)。

また数学の研究で有名な矢野健太郎博士の著書「数学質問箱」(講談社、1979)にも0.999...は極限として考えるべき、と書いてある。

あるいはこういう背理法的な考え方もありそうだ。仮に0.999... < 1とすると、1 - 0.999 = x > 0である。xはどんな実数だというのだろうか。また、x/10はどんな実数?